11.05.31 松明が消える日

松明堂という本屋がある。
ムサビの最寄り駅を降りるとすぐにある小さな本屋さんで
大学時代からよく通っていたし、今でも変わらず立ち寄ることが多い。
地下にはギャラリーも併設されていて、時々覗いては展示販売されている作品にうっとりしていた。

今日も何気なく立ち寄って、何を買うでもなく眺めていたのだが、ふと気付くとお客が多い。
今日は混んでるな、と見回すと店員さんが絶対に多い。「…??」
そこへ親しい常連さんが慌ただしく入ってきてなにやらとても残念がっている。
なんだなんだ、としばらく様子をうかがっていると…松明堂がなくなるような素振り。

「…!!?」

思いもかけない雰囲気に衝撃をうけて一人静かに呆然とする。
「勘違いかなあ…」とさらにうろうろしていてもその雰囲気を肯定するような情報しか入ってこない。
まったくわけが分からなかったが直感的に、本を買おう、と思った。
買わずにおいた文庫本を6冊、そして入口すぐの松明堂的オススメ本を1冊選び、レジへ。
すべてにカバーをつけてもらうことにした。
どうやら「記念に」とカバーをつけてもらう人が多いらしく、7冊もあったのに
店主の方は1冊1冊丁寧にカバーをしてくれた。
(松明堂のブックカバーは望月通陽氏が手がけており、とても素敵なのだ。)
後ろに並んでいた女性はしきりに残念がり、再開はないのかと聞いている。
やはり閉店するのに違いないらしい。

本を受け取り、学生時代からお世話になっていた気持ちを込めてお礼を言って店を出る。
振り返ると店先には確かに閉店・閉廊を告げる貼紙がしてあった。
それを見ながら、今日、偶然にも足を運んだことを本当に幸運に思った。

ちなみに私が雰囲気で察するまでまったく気づかなかったのには、
店内が普段と変わらない様子だったから、というのが大きい。
本は棚に充実し、新刊はきちんと並べられ、雑誌もたくさんある。
よくよくみれば棚には空いた部分もあったが、それは本の配置換えやら整理やら
を思わせる感じで、意識的に見ないと気付かないレベル。
最後まできちんと本を提供するというプロ意識に、心から敬意が湧き出る。

この小さく、けれど個性的だった書店の消灯を惜しむ人は多いだろう。
駅前から本屋がなくなるということもあるが、松明堂が、という理由で。

長い間、お世話になりました。


松明堂外観。


初めてつけてもらった時から大好きだったブックカバー。