12.11.24 その2 観てきた

前述の会合のあと、チラシのこま犬に誘われて、
松濤美術館で開催されている『古道具、その行き先ー坂田和實の40年ー』を観に行く。
ただただ、なによりも「行ってよかった」と思った。

会場全体が坂田氏の世界観に包まれ、「そこにあることが必然だ」と
モノたちが静かに、けれど誇らしげに、でもやっぱりひそやかにたたずんでいる。
例えば、別の場所でそれぞれを眺めたとして私はそれをまじまじと眺め、対話をしようとするだろうか?
答えは、否。たぶんそうだ。気に留めることすらないものだって少なくないに違いない。
それなのに「この場」に「このように」在るということがかれらのありようをすっかり変えてしまうのだ。

「価値」とは、ということが強烈に熱量を帯びて迫ってきた時間だった。
「価値」を持つということはどういうことなのか。
人が見いださない「価値」を創造することの難さと
それをし続けてきた人の強さとは、なんということだろう。

ただただ、なによりも行ってよかった。


そんな興奮した心持ちでいたところ、ギャラリーTOMのDMを見つける。
ちょうど今日、『雉女房』出版記念の会をしていて、
なんと柚木沙弥郎さんがいらしているとか!
おおいにアウェーだが、憧れの人に一目会いたい…と恐る恐る扉をたたく。
ギャラリーの方がそっと迎えてくれ、購入した『雉女房』に柚木さんからサインをいただくことが出来た。
あわわ…となってしまったが、なんとか鎌倉の展示の感想をお伝えすることが出来てホッとする。
ギャラリー内に飾られた作品を観て、少し所在なくしていたら雰囲気のある女性が声をかけてくださった。
昔からの柚木さんのファンで、展示などがあると通っているのだという。
ものづくりについて穏やかにお話をする。人生の先輩と話をする、話を聴くのはやっぱり好きだなあと思う。
そのあとで、また別の女性とお話をする。坂田氏の展示の話からなにかをつくりだすことは…と
いう話になり、とても心に響くお言葉をたくさんいただくことができた。

そして柚木さんは御年90歳とは思えぬ矍鑠さで、
ものづくりや好奇心が与えるエネルギーのすごさを改めて感じるのであった。

なんだか今日はとても贅沢な一日だ、と思いながら帰途につく。
一年のうちで、こんなに充ち満ちる日というのは多くない。


あ、ただ松濤美術館のカタログ…これはざんねんー!
雰囲気のある作りになっているし、
写真も丁寧に撮られているはずだと思うのだが(ホンマタカシ氏撮影)、
雰囲気をつくるために使用した(と想像される)本紙が写真を台無しにしている……ううう。
もっときれいに印刷された写真を見たかったなあ…。
こうしようとしたのは分からんでもないけど…ないけどさ!!と思ってしまった。